獣医師のみなさま >> 診療現場の尿検査

獣医師のみなさま

I. 診察現場の尿検査

日本獣医生命科学大学 獣医内科学教室 動物医療センター腎臓科

1. はじめに

泌尿器疾患の診断に尿検査を欠かすことはできない。このうち、慢性腎臓病では一般に最も早期に見られる異常検査所見は尿比重の低下とされており、尿検査は慢性腎臓病を早期の段階で検出する上で非常に重要である。

図1
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尿検査には採尿が不可欠であり、採尿法として一般に以下の4つの方法を挙げることができる。

これらはそれぞれ長所と短所があり、目的に応じて使い分けるべきである。

2. 各採尿法の手技・特徴

(1)自然排尿

動物が排尿するまで待ち、動物が排尿を開始したら尿を容器に回収する方法である。
 排尿時刻がほぼ一定していて、飼い主がその時刻を把握していれば、容易に採尿できるかも知れない。しかし、飼い主が容器を用意する仕草に驚いて、排尿を止めてしまう場合も少なくない。イヌでは外出させると排尿することが多い。

容器は清潔なものであればどのようなものでも構わないが、一部の飼い主の間ではウロキャッチャー(津川洋行)が支持されている。

写真1
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この採尿法は動物にとって負担がない。しかし、下部尿路や外生殖器を介した尿であるため、これらの上皮細胞や常在菌、あるいは被毛などの異物混入は避けられない。このため、特に膀胱内の環境評価が目的の場合には、自然排尿により採取した尿は適さない。

その反面で、後述するカテーテル尿または膀胱穿刺尿の検査結果、そして自然排尿により得た尿の所見を比較することで、下部尿路系の評価に役立つというメリットがある。

(2)圧迫排尿

体表から膀胱を圧迫し、強制的に排尿させ尿をサンプリングする方法である。
 膀胱内に尿が貯留していることを確認した後、小型動物であれば膀胱を握るように触診し、膀胱を数分間にわたり圧迫する。こうすることで、尿道内圧を上昇させ、動物に尿意を感じさせる訳である(決して、尿を強制的に絞り出すわけではない)。

ネコでは容易に実施できることが多いが、イヌ、特に雄イヌや大型犬では難しいことが多い。
 膀胱内に比較的大量の尿が貯留してさえいれば、比較的容易に実施できるというメリットがある。その反面で、下部尿路系や外生殖器を介した尿なので、上述した自然排尿による方法と同じ欠点がつきまとう。また、少量の尿しか貯留していない場合には、この方法による採尿は多くの場合で不可能である。さらに、尿道が閉塞している場合、あるいは何らかの原因により膀胱壁が脆弱化している場合、圧迫により膀胱を破裂させる恐れがある。また、膀胱圧迫により、動物に不快感を与える可能性も否定できない。

あまり知られていないことかもしれないが、膀胱圧迫により膀胱内の尿が尿管を介して腎盂に逆流することがある。特にネコでは膀胱尿管部の解剖学的特徴から、このような逆流が生じやすいといわれている。4頭という少数の健康ネコでの実験だが、我々の観察によれば逆流発生率は50%であった。この原因として、獣医師の臨床経験、そして上述したネコの解剖学的特徴に起因する問題の2つが考えられた。

写真2
写真2

図2
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膀胱炎が疑われる症例でこの採尿法を実施すると、膀胱内の細菌を逆流させ細菌性腎盂腎炎、あるいはこれにより慢性腎臓病を発現・悪化させる可能性があるため、我々の診療科では圧迫排尿による採尿は行わないようにしている。

(3)カテーテル挿入

尿道を介して膀胱内にカテーテルを挿入し、採尿する方法である
 雄の動物であれば、カテーテルは非常に容易に挿入できる。しかし、雌の動物では尿道口が体外に開口していないので、挿入は困難な場合が多い。

以下、当科で雌の動物で日常的に実施しているカテーテル挿入法の手順を動画を交えてご紹介する。

<カテーテル挿入の手順 雌イヌ編>

<必要な材料>
カテーテル、キシロカイン、シリンジ(2本)、アルコール綿

※こちらのビデオに音声はございません。

1 保定者はイヌを脇の下に抱え、もう一方の手で尻尾を持ち上げる。

写真3
写真3

2 外陰部を消毒し、膣内に指を挿入する。
挿入する指は、動物の体格に応じて親指以外の指を用いる。

写真4
写真4

3 イヌでは外尿道口の位置が触診により確認できることが多い。

写真5
写真5

4 外尿道口の位置を確認できたら、キシロカインゼリーを塗布した軟らかい滅菌カテーテルを指の下に沿わせて挿入する。

写真6
写真6

<カテーテル挿入の手順 雌ネコ編>

<必要な材料>
カテーテル、キシロカイン、シリンジ(2本)、アルコール綿

※こちらのビデオに音声はございません。

1 保定者は、タオルなどを利用してネコを脇の下に抱え、もう片方の手で、保定台の端から後肢をさげる。

写真7
写真7

2 外陰部を消毒し、陰唇の腹側を指先でつまみ、腹側に軽く引き、その状態でカテーテルをやや腹側に傾けて腹側を沿わせながら膣内に挿入する。
イヌとは異なり、ネコでは外尿道口の位置が触診では確認できないことがほとんどである。

写真8
写真8

3 キシロカインゼリーを塗布したカテーテルの先端を膣壁の腹側正中部を這うように頭側に進めると、カテーテルを膀胱内に挿入できる。

写真9
写真9

カテーテル挿入による採尿法は、膀胱から直接尿を採取するので、上述した自然排尿や圧迫頻尿とは異なり、下部尿路に由来する細胞や細菌、あるいは体表異物が混入することはない。しかし、カテーテル挿入時に外尿道口付近の細菌を膀胱内に逆流させることがあるため、後述する(4)膀胱穿刺法と比べると清潔度は劣ることに加え、膀胱に細菌を感染させるリスクがある。

また、カテーテルの操作に伴い、膀胱を含む下部尿路系を損傷する恐れもある。さらに、動物に不快感を与える可能性も否定できない。

このように、膀胱へのカテーテル挿入は採尿法としてはあまりメリットがないと思われる。加えて、雄と比較すると雌ではカテーテル挿入が困難である。このような事情から、現場では膀胱へのカテーテル挿入を躊躇するか、あるいは考慮しない獣医師が少なくないのかも知れない。しかし、膀胱へのカテーテル挿入は非常に重要なテクニックの1つだと思われる。

腎機能の最も優れた指標はBUNやクレアチニンではなく、尿量である。このため、急性腎不全のリスクが高い動物(例えば手術前後)のモニタ項目には、尿量の測定を含めるべきである。また、心臓性肺水腫で入院した症例では、輸液速度を調整し、さらに利尿剤の投与量や投与タイミングを見定め、さらにドパミンなどの薬剤を併用する必要性を検討する上で、尿量は非常に参考になる。

要約すると、膀胱へのカテーテル挿入は尿検査が目的であればメリットはあまりない。しかし、腎機能をリアルタイムに評価し、この異常を最も早期に検出することが目的であれば、我々にとって非常に優れた武器になるのである。

(4)膀胱穿刺

細い注射針で膀胱を穿刺し、膀胱内の尿を直接採取する方法である。
 起立または側臥位で動物を保定し、触診で膀胱の位置を確認し、これを保持しながら、膀胱を穿刺するという方法もあるが、当科ではこのような盲目的な穿刺は実施していない。超音波で膀胱の位置および尿の貯留程度を確認しながら、膀胱を穿刺した方が安全である。また、超音波でガイドすることで、膀胱内の尿が少量の場合でも安全に採尿できるようになる。

<膀胱穿刺の手順 イヌ編>

※こちらのビデオに音声はございません。

1 膀胱穿刺のプローブの操作と穿刺は二人で手分けしても良いし、一人で実施しても良い。

写真10
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写真11
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2 超音波ガイド下で膀胱を穿刺する場合、イヌは仰臥位で保定する。

写真12
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3 超音波で膀胱の位置を確認する。

写真13
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4 穿刺する部位は膀胱頚部付近の正中が良いとされている。

<良い例>

写真14
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写真15
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膀胱の頭側に穿刺すると、採尿に伴い膀胱内の尿が減少して膀胱が収縮したときに、穿刺した針が膀胱内から抜けるリスクがある。

<悪い例>

写真16
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写真17
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5 注射針を抜去した後は、穿刺部位から腹腔内への尿の漏出を防ぐために、膀胱を圧迫したり、マッサージしてはならない。

写真18
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写真19
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<膀胱穿刺の手順と環境 ネコ編>

※こちらのビデオに音声はございません。

1 膀胱穿刺のプローブの操作と穿刺は二人で手分けしても良いし、一人で実施しても良い。

写真20
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写真21
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2 超音波ガイド下で膀胱を穿刺する場合、ネコは仰臥位で保定する。

写真22
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3 超音波で膀胱の位置を確認する。

写真23
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写真24
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4 穿刺部位をアルコールで消毒した後、23ゲージ注射針で膀胱を穿刺する。

写真25
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写真26
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5 穿刺する部位は膀胱頚部付近の正中が良いとされている。

<良い例>

写真27
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写真28
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膀胱の頭側に穿刺すると、採尿に伴い膀胱内の尿が減少して膀胱が収縮したときに、穿刺した針が膀胱内から抜けるリスクがある。

<悪い例>

写真29
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写真30
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6 注射針を抜去した後は、穿刺部位から腹腔内への尿の漏出を防ぐために、膀胱を圧迫したり、マッサージしてはならない。

膀胱穿刺による採尿法は、尿道や外生殖器の影響を受けない、体表異物が混入しないというメリットがある。このため、尿の培養検査に最も適した採尿法と言える。ちなみに、尿に混入する細菌数は膀胱穿刺では100個/ml未満だが、カテーテル挿入法および自然排尿ではその数はそれぞれ10および100倍に増えると言われている。

穿刺中に動物が暴れると、注射針で膀胱や近隣組織を損傷する恐れがある。また、子宮蓄膿症や膀胱周辺の手術を実施した直後の症例では、この方法による採尿は避けた方が無難であろう。また、出血傾向のある動物では禁忌である。

この採尿法の最大の欠点は、飼い主の同意が得られない場合が多いことかもしれない。
「針でお腹を刺して採尿する」という説明から、疼痛を伴う残酷な状況を想像する方が少なからずいらっしゃるようである。しかし、実際には採尿中の動物は全くと言って良いほど疼痛症状を示さず、またここで述べる採尿法のうち、最も短時間で採尿を終えることができるので、動物にとって膀胱穿刺は最も安全で優しい採尿法といえよう。
以下の動画を飼い主へのご説明にお役立て頂ければと思う。

<オーナーも納得!膀胱穿刺は安全で優しい採尿法 イヌ編>

※こちらのビデオに音声はございません。

写真31
写真31

<オーナーも納得!膀胱穿刺は安全で優しい採尿法 ネコ編>

※こちらのビデオに音声はございません。

写真32
写真32

 

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