獣医師のみなさま >> 心疾患・腎疾患症例集 >> 症例55

獣医師のみなさま

症例55

ベナゼプリルの増量およびピモベンダンの追加により、利尿剤から離脱できた僧帽弁閉鎖不全症の犬の1例

症例提示:佐藤 浩、竹村直行先生(日本獣医生命科学大学)

1. はじめに

心不全の進行を抑制するためには、その増悪因子であるレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系の活性を抑制することが非常に重要である。犬の僧帽弁閉鎖不全症の治療にはその重症度により様々な薬剤が使用されるが、その中でもアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)は、RAA系を直接抑制するため必須の薬剤である。

今回、中程度の心不全症状がみられた僧帽弁閉鎖不全の犬に対し、ベナゼプリル(フォルテコール)の増量とピモベンダンの追加により心不全症状が緩和され、QOLが保たれている症例を経験したのでその概要をご紹介する。

2. 症例のプロフィール

症例はキャバリア・キングチャールズ・スパニエル、10歳6ヵ月、避妊雌、体重7.0kgである(写真1)。紹介病院にて2年前に僧帽弁閉鎖不全症と診断され、すでに治療が開始されていたが(塩酸ベナゼプリル0.5mg/kg、硝酸イソソルビド2mg/kg、スピロノラクトン2mg/kg、フロセミド0.8mg/kg、いずれもbid)、このところ発咳の頻度が増したため治療方針の策定を目的に当院循環器科に来院した。

写真1
写真1

3. 初診時身体検査

(1)問診
発咳は運動時や興奮時に頻繁にみられ、また散歩時や屋内での運動量も低下していた。

(2)身体検査所見
BCSは3/5で、呼吸様式に異常はなく、またチアノーゼは見られなかった。口腔粘膜に乾燥はみられず、水和状態は正常と判断した。CRTは1秒以内で、大腿動脈圧は正常であった。

心拍数は84bpmで、左側心尖部にてLevine6/6の収縮期逆流性雑音が聴取された。呼吸音は正常であった。

4. 各種検査所見

(1)血液化学検査
本症例はホームドクターにてすでに利尿剤の投与が行われていたため、血液化学検査を実施したところ、BUNは18.4mg/dl、クレアチニンは1.0mg/dl、で、Ca、iP、Na、KおよびClはすべて参考範囲内であった。

(2)心電図検査
心拍数は107bpmで、リズムはやや不規則であった。しかし、P波の後にQRS-Tが必ず出現すること、PR間隔は一定で、そしてどの心電図波形の形状も同様であることから、洞性不整脈と判断した(図1)。

またII誘導において、P波の持続時間が0.05秒と延長し、さらにQRS群の持続時間も0.06秒と延長していたため、左房および左室拡大と判断した(図2)。

図1
図1

図2
図2

(3)胸部X線検査
背腹像では心尖部がやや右側に変位していた(写真2)。側面像ではVHSが11.7Vと増大しており、後大静脈の頭側は胸椎方向に挙上していた(写真3)。これらの所見から左心系の拡大が示された。

いずれの撮影方向においても肺野は正常であり、肺水腫や呼吸器感染症を疑う所見は認められなかった。

写真2
写真2

写真3
写真3

(4)心エコー検査
右側胸壁からの左室長軸像では、軽度の左房の拡張に加え、拡張末期に心室中隔壁が右室側へ湾曲する所見が観察された(動画1)。僧帽弁の前尖は高度に肥厚し(写真4)、閉鎖時に逸脱も確認された。また、収縮期に再現性のあるモザイクシグナルが左房全体で観察され(動画2)、右房内でも非常に軽度の逆流が観察された。

左房拡張の指標となる左房内径と大動脈根径の比(LA/Ao)は、1.72と軽度に上昇していた(写真5)。左室短軸像(乳頭筋レベル)でのMモード計測により、拡張末期の心室中隔壁(0.69cm)と左室自由壁(0.69cm)は参考範囲内であったが、拡張末期左室内径は3.09cmと軽度に拡張していた(写真6)。また収縮性の指標となる左室内径短縮率(FS)は、44.7%と低下傾向にあった。

左側胸壁からの四腔断層像においても僧帽弁前尖の重度の肥厚が見られた。僧帽弁口部での逆流血流速度は5.12m/秒であり(写真7)、左室流入血流波形のE波およびA波はそれぞれ1.01m/秒と0.52m/秒であり両者の比は1.93であった(写真8)。

写真4
写真4

写真5
写真5

写真6
写真6

写真7
写真7

写真8
写真8

5. 診断および治療

以上の所見から本症例をISACHCクラスIIの僧帽弁閉鎖不全症および三尖弁閉鎖不全症と診断した。すでに投与されていたベナゼプリルを0.5mg/kg,bidから1mg/kg,bidへ増量した。硝酸イソソルビド(2mg/kg bid)、スピロノラクトン(2mg/kg bid)は継続とした。さらに心収縮性を増強するためにピモベンダン(0.2mg/kg bid)を追加し、今まで使用していたフロセミド(0.8mg/kg bid)は肺水腫がないことから休薬することにした。
フロセミドを休薬したため、呼吸状態および発咳の頻度には注意するよう指示した。

6. その後の経過

第14病日の問診では、運動量が増加し、発咳の頻度は減少したとのことであった。呼吸状態は安定しており、体重に変化は見られなかった。食欲も安定していてCRTおよび股動脈圧にも変化はなかった。心雑音はLevine6/6で不変であった。

BUNは10.5mg/dl、クレアチニンは0.8mg/dlといずれも参考範囲内であった。 胸部X線検査では、VHSが11.4Vと低下傾向がみられた(写真9)。 心エコー検査では僧帽弁の重度の肥厚や逸脱所見はみられるものの、拡張末期左室内径は2.90cm(写真10)と低下していた。またLA/Aoは1.86(写真11)と上昇していた。

フロセミドの休薬による容量負荷の急激な増加を思わせる症状、ならびに塩酸ベナゼプリル増量による高窒素血症の発現がみられないことから、薬剤変更による病態悪化および有害反応はないと考えられた。また心不全症状の改善もみられていることから、同様の処方で継続治療とし3ヵ月毎の定期検診を指示した。

第128病日の時点で、臨床症状および各種検査結果に大きな変化がなかったため、スピロノラクトンも休薬とした。
第433病日では食欲や運動量も安定しており咳も運動不耐性もみられなかった。 体重が6.95kg、心拍数が144bpmであり、CRTや股動脈圧も正常であった。BNUは16.6mg/dl、クレアチニンは0.9mg/dlでいずれも参考値範囲内であった。

胸部X線検査ではVHSが11.3Vであり、肺野も正常であった(写真12)。心エコー検査では、LA/Aoが1.91(写真13)、拡張末期左室内径が3.05cmといずれも上昇傾向にあったが、FSは54.9%であった(写真14)。

以上のことから臨床症状が安定していると判断し、引き続き3ヵ月毎の定期検診を継続するように指示した。

写真9
写真9

写真10
写真10

写真11
写真11

写真12
写真12

写真13
写真13

写真14
写真14

6. コメント

 

文字サイズの変更

  • 小さく
  • 標準
  • 大きく

動物病院専用プレミアムフード

愛犬・愛猫の年齢に適した栄養設計で安心してあげられるプレミアムフードです。

詳細はこちら

添付文書情報

皮膚疾患症例集、心疾患・腎疾患症例集をどうぞご利用下さい。

皮膚疾患症例集はこちら

心疾患・腎疾患症例集はこちら