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獣医師のみなさま

症例61

塩酸テモカプリルの単独療法により経過観察している僧帽弁閉鎖不全症(ISACHCクラスI)のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの1例

症例提示:佐藤浩、竹村直行先生(日本獣医生命科学大学)

1. はじめに

発咳や運動耐性の低下などの症状を呈した僧帽弁閉鎖不全症(ISACHCクラスII以上)では、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(以下ACEI)による心不全の治療効果は証明されているが、無症状の僧帽弁閉鎖不全症(ISACHCクラスI)での治療効果は2007年のAtkinsら、そして2008年のPouchelonらの報告以前は不明確であった。

キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(以下キャバリア)の僧帽弁閉鎖不全症は、他の犬種と比べ比較的若齢で発症し、進行が早い傾向がある。しかも無症状段階からのACEI療法は、他の犬種と比べるとその有効性が期待できないことが報告されている。

今回、僧帽弁閉鎖不全症(ISACHCクラスIa)と診断された時点から、塩酸テモカプリルの投与を開始し、定期的に経過観察しているキャバリアを経験したのでご紹介する。

2. 症例のプロフィール

症例はキャバリア、9歳5ヵ月齢、避妊雌、体重6.8kgである(写真1)。ホームドクターにて身体検査や画像診断から僧帽弁閉鎖不全症と診断され、その治療方針の策定を目的に、日本獣医生命科学大学付属動物医療センター循環器科に来院した。

写真1
写真1

3. 初診時の検査所見

(1)問診
食欲や排尿、排便など、一般状態に異常はみられなかった。性格が穏やかなため、運動耐性の低下に関しては正確に評価できなかった可能性はあるが、興奮時および安静時に発咳はみられなかった。

(2)身体検査所見
BCSは3/5で、呼吸様式に異常はみられず、チアノーゼもみられなかった。口腔粘膜の状態や皮膚摘み検査からは、臨床的な脱水はみられなかった。CRTは1秒以内で、触診での股動脈圧も正常だった。

心調律は一定で、心拍数は150bpmであった。左心尖部にてLevineII/VIの収縮期逆流性雑音が聴取された。呼吸音は正常だった。

(3)心電図検査
心電図検査時の心拍数は148bpmであり、各種波形や振幅、持続時間に異常はみられなかった(図1)。また、RR間隔の変動率が10%以下であるため正常洞調律と判断した(図2)。

図1
図1

図2
図2

(4)胸部X線検査
側面像では肺野に異常はみられず、肺血管の拡張所見もみられなかった。 左房の拡大所見や気管の挙上所見もみられなかった。VHSは10.4vであった(写真2)。背腹像では心陰影や肺野に異常はみられなかった(写真3)。

写真2
写真2

写真3
写真3

(5)心エコー検査
右傍胸骨左室長軸四腔断面にて、僧帽弁の閉鎖点の上昇および前尖の中程度の肥厚がみられた(写真4、動画1)。また、左房内に再現性のある軽度のモザイクシグナルが収縮期にみられた(動画2)。右傍胸骨左室短軸像での左房内径と大動脈根径の比(LA/Ao)は1.33と、参考値範囲内であった(写真5)。乳頭筋レベルでのMモード法で測定した心室中隔拡張末期壁厚(0.78cm)、左室拡張末期径(2.53cm)、左室自由壁拡張末期壁厚(0.63cm)、そして左室短径短縮率(FS:40.9%)はすべて参考値範囲内であった(写真6)。

左傍胸骨心尖部四腔断面においても、左房内にモザイクシグナルがみられた(動画3)。僧帽弁弁口部での僧帽弁逆流血流速度は5.90m/sであり(写真7)、左室流入波形のE波およびA波はそれぞれ0.71および0.60m/sであり、両者の比は1.17で、これらも参考値範囲内であった(写真8)。

写真4
写真4

写真5
写真5

写真6
写真6

写真7
写真7

写真8
写真8

4. 診断および治療

以上の検査所見から、本症例をISACHCクラスIaの僧帽弁閉鎖不全症と診断した。この時点で、すでにホームドクターにて処方されていた塩酸テモカプリル(0.15mg/kg sid)をそのまま継続投与することとした。本症例の場合、キャバリアという犬種も考慮して、6ヵ月ごとの定期検診を指示した。

5. その後の経過

第171病日では、発咳や運動耐性の低下はみられず、呼吸状態にも異常がみられなかった。心拍数は140bpmで、CRTや股動脈圧にも異常がみられなかった。心雑音はLevineII/VIと変化がみられなかった。血液化学検査ではBUNは16.3mg/dl、クレアチニン0.7mg/dlといずれも参考値範囲内であった。

胸部X線検査ではVHSが10.2vであり、肺の血管系や肺野にも異常所見はみられなかった。心エコー検査では初診時とほぼ同様の所見がみられ、いずれの画像診断からも心拡大を示す所見はみられなかった。このため、同様の処方で治療継続とした。

第360病日では体重が7.0kgと増加していたが、心拍数は138bpmであり、発咳や運動耐性の低下はみられなかった。その他の身体検査所見にも異常はみられなかった。
 心電図検査において、QRS群を伴わないP波の出現がみられた。そのP波は他のP波と同様の形状で一定していた。またP-R間隔が一定であるため、第2度房室ブロック(モビッツII型)の出現と判断した。この不整脈は30秒間で8回出現していた(図3)。

胸部X線検査ではVHSが10.4vであり、肺血管系や肺野には異常がみられなかった(写真9、10)。心エコー検査ではLA/Aoは1.45(写真11)、左室拡張末期径は(2.73cm)であった。またFSは30.0%だった(写真12)。左房内の主観的な逆流面積の増加もみられず、逆流血流速度は4.01m/sだった(写真13)。

以上の所見から、初診時から第360病日まで病態の変化がほとんどないと判断し、その後も同様の治療を継続しながら、6ヵ月ごとの定期検診を指示した。

図3
図3

写真9
写真9

写真10
写真10

写真11
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写真12
写真12

写真13
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6. コメント

 

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